夏淑琴さん勝訴、東京高裁判決

5月21日、東京高裁(柳田幸三裁判長)は、中国南京市在住の夏淑琴さん(78歳)が名誉を棄損されたと損害賠償などを求めていた控訴審で、名誉棄損を認めた1審判決に引き続き、原告夏さん勝訴の判決としました。被告東中野修道亜細亜大学教授と展転社に400万円の支払いを命じています。

原告夏さんは、1937年の日本軍の引き起こした南京事件当時、家族7人を殺され、当時8歳の本人も銃剣で刺されたという体験者です。現地で生存者として認められているばかりでなく、来日して発言も行っている女性です。その本人を、証言は疑わしい、怪しい人間であると、述べた著作が1998年に日本で出版されました。夏さんは著者と出版社に対し、名誉棄損されたと損害賠償の裁判を日本で起こしました。

東中野修氏の著作は、「『南京虐殺』の徹底検証」(1998年 展転社)です。東中野氏は、夏さんにかかわるケースについて同書240ページから251ページにおいて言及しています。

刊行時期は、アメリカで1997年にアイリス・チャンの「ザ・レイプ・オブ・南京」」が出版され、アメリカ国内はもとより国際的にも多大の反響を呼んだあとになっています。したがって、チャンのその著作にも及んでいますが、それは南京での強姦の人数、当時の南京市の人口の点を不正確な記述であるとするのにとどまっています。

しかし、チャンは、著書の第3部で、戦後日本での南京事件がどう明らかにされようとしていったか、どう闇に隠されようとしていったかを、詳述しています。東中野氏本人こそ登場していないものの、氏ととも同様の主張を行っている日本人が何人も紹介され手厳しい評価が与えられています。その点には東中野氏は、応えてはいません。

じつは裁判のことは起こったことも経過もまったく知らずにいて、知人から新聞赤旗5月22日号に報道されていることを教えられて、ようやく知りました。それから、「『南京虐殺』の徹底検証」を読み、私なりのあわせての考えを述べているのです。

東中野氏の著作、400ページ以上もあり、索引もくわしくついており、手間隙かけた労作だと言えましょう。ご本人の論点と理由を、他の意見などと比較参照するのはたいへん楽で助かる本でした。

でも、東中野氏の独自の視点として、「(陥落で日本軍入城後)治安は急速に回復に向かった。」(229ページ)が、怪しい虐殺情報に対置して置かれているなど、思いが先行する著述の感じがします。また「汪兆銘蒋介石の打ち出した三光作戦」(40ページ)と日本軍の行為「三光作戦」の言葉が使われていたのには、驚かされました。自分に都合よく、いろいろ並べ立てた本では、との気持にもなりました。

22日記事では判決について次のように言及しています。
控訴審東中野教授側は、米国人宣教師が虐殺現場を記録したフィルムは夏さんの事件とは『別件』でねつ造されたものと主張。フィルムの解説文は宣教師の『創作話』で、『8歳の少女』は『空想の産物』なので、実在する夏さんとは別人であり、記述は名誉棄損にあたらないと新たな主張を展開しました。
判決は、一審の口頭弁論などで被告の著者らが解説文の内容や『8歳の少女』の存在を認め、東中野教授もその趣旨の陳述書を作成していたと指摘。被告側の主張は『採用できない』として棄却しました。」

南京虐殺まぼろし」という主張はなかなか通らないことが、これまでの論議の積み重ねのなかではっきりしてきたようです。東中野氏の主張もできればそうあってほしいとの思いからでしょうか。思いはともかく、主張には整合性に欠け破綻があることが、またひとつ明らかになったのではないでしょうか。

以上 (前荷 進) 080620