山崎豊子「運命の人」出版はじまる

月刊誌「文藝春秋」(株式会社 文藝春秋)で、作家山崎豊子(やまさき・とよこ)さんの小説「運命の人」が連載されていました。この4月より同じ文藝春秋より単行本として出版されました。もっとも全4巻の予定で、今は第1巻、第2巻の刊行です。

2005年1月号より2009年2月号までの連載でした。切れ目なくということではなかったような印象ですが、私も連載のものをいくつか読み損ねているので、確かな記憶ではありません。山崎さんの「熱意あふれる」筆致にひきこまれてしまう気持ちに何度となくさせられました。「作者はつねに『書かずにはいられない』主題があって小説を作るー(山本周五郎 「小説の効用」」だそうですが、山崎さんの「書かずにはいられない主題」とは、「運命の人」の場合なんだったのでしょうか。

「この作品は、事実を取材し、小説的に構築したフィクションである。」と注されています。事実とは、佐藤内閣の時沖縄返還がはたされましたが、その際のいわゆる「沖縄密約事件」です。密約の存在を明かしにかかった新聞記者が、時の権力の手で、裁判にかけられ、それでは負けてしまう、ということがありました。山崎さんは、その元新聞記者をモデルに、裁判にとどまらずその後も描いた小説を書きました。それが月刊誌の連載にとどまらず、単行本として読者が改めて読むことができることになりました。

まとめて読めることはありがたいことで、作者の達者なストーリー展開を切れ切れではなく味わうものとなっています。ゴールデンウィークのなか、とりかかった1,2巻はあっというまに読んでしまいました。3,4巻も続いて発刊されるようですから、てぐすねひいてまちかまえようという心境です。

国民をあざむく国家権力とは、という重いテーマが含まれていることは間違いありません。忘れ去られかねなかった「沖縄密約事件」に、今一度日を当てたものにもなりました。

株式会社文藝春秋が、看板月刊誌に連載の場を提供し、単行本として刊行、その意気やよし、です。いくらほめてもほめたりないというのは過言でしょうか。

以上 (与謝名 阿寒) 090505