映画「沈まぬ太陽」、見ごたえがあり考えさせられる映画でした

映画「沈まぬ太陽」、封切りされていましたが、機会をつくって観ることとなりました。

山崎豊子さんの同名の原作小説、読んでいました。読み応えのある長編小説で、週刊新潮に連載時は、切れ切れにしか読んでいなかったのですが、単行本となったものは一気に読みきりました。およそ映画化が実現するとは思ってもいませんでした。それが10年を経て角川映画の手で映画となり、東宝の配給で全国公開されました。8月の総選挙で政権交代が実現しましたが、映画化の企画撮影は、その以前からの取り組みであったことはもちろんです。時代は変わってきていることを実感させる出来事のひとつと、私は受け止めました。

原作の重量感、深い奥行き、どの程度表現されているだろうとの心配がありました。その杞憂を吹き飛ばすだけの内容を持った映画でした。

これから観るかもしれない方に、多少紹介をしようと思いました。

多くの人に見てもらいたい、その意味では世代をこえて見る点でも国民的映画です。テーマの面、訴えるもの、誰にもわかりやすい内容という意味でです。小説を元にしたフィクションですが、現実に切り込んだ問題提起作です。

筋立ては原作とは違ったところもありますし、コンパクトな内容です。ですが、原作の精神を見事にしめしていました。脚本が実によく練られたものであることが、場面場面から感じられました。原作をよく噛み砕いて、映画としての面白さに結実させたチームの力量には、舌を巻くものがあります。

山崎豊子さんが、以下の言葉を映画に対して寄せていることもうなづけます。
「『沈まぬ太陽』の映像化には、長い険しい道のりがありました。
この度、若松監督の下で、渡辺謙さんをはじめ、個性的なキャスト選りすぐりのスタッフが、映画製作に勇気を持って挑戦して下さいました。その気魄が大画面一杯に広がり、人間のあるべき生き方を問いかけて下さいました。
物語の時代背景は1980年前後ですが、すべてがそのまま現代に通じるテーマです。若い世代にも是非、観て戴き、戦後日本が現代に到った経緯を考えて戴ければと、切に祈ります。」

山崎さんに、主人公恩地元(おんち・はじめ)のモデルとされたのが、日本航空社員だった小倉寛太郎(おぐら・ひろたろう)さんです。小倉さんは2002年に72歳で亡くなられましたが、生前に書かれた小説は大ベストセラーとなり内容は広く世に知られました。

最近、角川新書で「組織と人間」の題で佐高信(さたか・まこと)さんが、共著という形で本を出しました。以前の両者の同名の対談、佐高さんの発表されている文章、小倉さんの著作からの文章が収録されており、コンパクトな内容ですが、充実しています。

対談(岩波ブックレットで出版)はしみじみ読ませます。また小倉さんの文章「『働く』ということ」の中で、体験から学んだことで、心がける大切にすべきことが盛られていますが、私には中でも「理性的な納得と感性的な納得の一致が大事」という点に感じ入りました。

小倉さんは「自然に生きて」という定年後に書かれた本がいま売られてもいます。それには「『働く』ということ」も入っていますし、誠実に生きた気持ちにふれられる読みやすい本です。

小説・映画とともに両書もお読みいただくことで、どなたもさらに視野がひろがるのではないでしょうか。

以上 (あほうどり) 091122