三井環「検察の大罪」(講談社 2010年7月刊)を読んでいて

三井環氏の「検察の大罪」(講談社 2010年7月刊)を最近読みました。8月に出た斉藤邦雄氏の「実録 くにおの警察官人生」(著者は北海道警察の裏金問題の実名告発者)を読んだことで、検察の裏金問題についてもより関心を持ったからです。

三井氏は、現職検事として大阪高検公安部長だった2002年4月に、逮捕され実刑判決が確定、2010年1月に満期出所しました。警察の裏金問題と同様、検察にも裏金問題があると実名告発を行おうという矢先、検事としては不適格とされる「不祥事」が理由とされる逮捕でした。出所後、変わらず検察の裏金を告発追及する立場をとっています。

「検察の大罪」、逮捕以前そして逮捕以降から現在に至るまでの本人の主張意見、経過を網羅的に述べています。生々しく臨場感ある描写が随所にあります。

本当だとしたら深刻な問題提起も行っていました。
「(2001年)10月末、法務省検察の世紀最大の汚点が実行された。
法務大臣後藤田正晴に近い筋からの情報によると、原田検事総長松尾邦弘法務事務次官、古田佑紀刑事局長が、後藤田の事務所を訪ね、加納人事が承認されないと裏金問題で検察がつぶれると、泣きを入れたと言われる。これを後藤田は後に『けもの道』と名付けたと言われる。
検察がときの政権にすり寄って、貸し借りを作る。これは検察が政権に対して取るべき道ではない。人が取る道ではなくてけものがとる道、もしくは邪道である。私が『けもの道』というゆえんなのである。
政権側も、検察が隠し持つ毒を『飲み』、表面的にはうまくおさめる。結果、その共犯の行為が検察と政権のその後の関係を決定していくことになる。」(41ページ)

そのことが検察をゆがめ、自分の逮捕への道を開いたということを言いたいのです。またその後の政界がらみの数々の事件に三井氏は納得がいかないとした指摘を行っています。それがあたっているとすれば当時の政権政党自民党も問われることになるでしょう。自民党は口をぬぐっていたのではないかということ、認めていたのではないかということ、国民に説明すべきことではないでしょうか。

10月1日、大阪地検特捜部の前部長大坪弘道氏が逮捕されました。無罪となった人についての不当な捜査を行った検事の行為を隠蔽したという容疑です。

大坪氏は三井氏の逮捕後の取調べにあたった人でした(78ページ、101ページ、133ページ)。読んだことで名前をしっかり覚えた直後に、話題の人となり、どうなるかと思っていたら逮捕です。はたしてどういうことになっていくのか。証拠のフロッピーを書き換えた部下だった前田検事だけの事件にとどまらなくなりました。

「検察の大罪」には、逮捕のその日テレビ取材をする予定だったジャーナリスト鳥越俊太郎氏が文章をよせています。彼は出所後三井氏を改めて取材し、それは今年5月にテレビ放映されました。

大坪逮捕のテレビや新聞報道今朝目にしましたが、「検察裏金」の関連で触れているものはなかったように思われました。今後警察裏金問題、検察裏金問題におよびごしだったマスコミ(とくに大手マスコミ)のきちんとした掘り下げや報道を期待したいものです。

余談ですが、「けもの道」という後藤田表現に違和感を持ちました。三井氏も肯定しているようですが、邪道の表現にその言い方があるのかということに気づかされたのです。動物としての「けもの」たち、今では明らかなように、素直にせいいっぱい生きている存在です。人間ならではの勝手な決め付け方なのですから、過去の表現となってほしいものです。

以上 (前荷 進) 101002