池井戸潤「下町ロケット」直木賞

7月14日第145回の直木賞池井戸潤氏(48歳)の「下町ロケット」が選ばれました。年商100億規模の中小企業(?)が、さまざまな試練を切り抜け発展していくことを描いた作品です。

池井戸氏の受賞の弁は以下の通りです。
「企業小説が文壇で評価されるのは難しいと思っていたのでうれしい。栄誉をいただき身の引き締まる思いだ。努めた経験がない人にも難しいと思われないよう、説明を丁寧に織り込んでいくことが重要。これからも誠心誠意、100%の力で書いていきたい。」(北海道新聞7月15日朝刊36面)
「文壇の権威たちが、心の苦しみより、お金で苦悩する人を書いた作品を評価してくれたのはうれしい」(同 2面「人」欄)

企業小説、経済小説といわれる分野があります。高杉良氏なども書き手のひとりです。元銀行員である池井戸氏が90年代の後半以降頭角を現してきました。直木賞作家となったことが、べつに驚かれない実績をすでに持っている作家です。

私の池井戸潤認識は、2007年はじめに、知人から「空飛ぶタイヤ」を薦められ、読んだことからはじまりました。「空飛ぶタイヤ」、欠陥車を購入し事故を起こした運輸会社の悪戦苦闘が、社長を中心に描かれています。ともかく強大な相手に勝ち目がないと思われる戦いが、実に説得力ある描写で書かれていました。実話がベースになっているとはいえ、その骨太な構成と理不尽さ追求の姿勢には目を見張りました。作中の人間も生きています。経済小説の奥行きと幅を広げていった人であることは間違いありません。

下町ロケット」も、作中人物、生き生きと精彩を放っています。私を含めた読者を、これからも楽しませてほしいものです。今後をさらに期待します。

2011年7月15日  前荷 進