「『東京裁判』を読む」を読む

東京裁判日中戦争、太平洋戦争時などの日本の政府,軍指導者を裁いた極東国際軍事裁判の通称)の裁判記録が、1999年国立公文書館に移管され、公開にむけた作業が進められました。2008年6月、その作業が終了したそうです。

日本経済新聞がその資料に取り組みました。編集委員の井上亮氏が、昭和史研究家である作家の半藤一利保阪正康両氏と資料研究会をつくっての取り組みを行い、そこで得られたものを「『東京裁判を』を読む」としてこのたび出版しました。

3人の気持ちは大きな点で一致しています。60年たってようやっと、史実として客観的に「東京裁判がなんであったか」を論じる時代になった、という認識です。それに向けての手引きとしての位置を本書に与えています。そして裁判は検察側が明らかにした国民にさえ隠していた、軍事指導者の無茶を明らかにしたということも3人の共有の思いであることをふくめて。

日本軍将官たちの証言に対して半藤氏は次のように気持ちを述べています。
「無計画な軍隊が行きがかり上亡国の戦争をやったといっている。こんな風だから、日本は軍隊なんか持っちゃいかんのですよ。」(第3章 弁護側立証を読む 鼎談 229ページ)

3氏の読み解いていく熱意気持ちがつたわる書です。後世への発言としても意味も意義もあるのではないでしょうか。しかも謙虚です。いろいろな意見批判についても、応えていこうという姿勢にあふれていました。

8月7日北海道新聞朝刊は、8月6日田母神俊雄航空自衛隊幕僚長の講演内容を本人の発言として下記のように伝えていました。

被爆国だから核武装すべき 田母神氏が広島講演

原爆の日の6日、政府見解の歴史認識を否定する論文を公表して更迭された田母神俊雄航空幕僚長広島市で講演し、『唯一の被爆国だから、3度目の核攻撃を受けないよう核武装すべきだ』と主張した。
日本会議広島が主催し、演題は『ヒロシマの平和を疑う』。田母神氏は『2020年までの核兵器廃絶は夢物語』と、秋葉忠利広島市長の平和宣言を批判。『核保有国同士は相手からの報復を恐れるため、先制攻撃は絶対にしない。国を守るため、日本も核兵器を持つべきだ』と約2時間にわたって持論を展開した。」

田母神氏は、かっての戦争は侵略戦争ではなかった、との意見の持ち主のはず。拙速な思い込みの結果からの意見ではないかと私は疑っています。道新記事は、私の疑いを晴らすものではありませんでした。「こうあらねばならない」という視点は、本人にはよくても、他人にはどうしてそうなのかわからないというのが、多く見受けられます。それが知識や教養の不足からくるものならさらに不幸なことです。戦後生まれの田母神氏、「『東京裁判』を読む」は読んでみるべきなのではないでしょうか。読みやすさにも徹した本です。

以上 (あほうどり) 090810