中島隆「魂の中小企業」

朝日新聞夕刊1月8日から28日に掲載された「魂の中小企業」(ニッポン人脈記シリーズのひとつ)が8月に朝日新聞出版から刊行されました。取材執筆をした中島隆記者がさらに加筆をしたうえのものです。連載がされていたことは知っても、家で購読してわけではないので、とびとびでしか目を通していなかったのです。9月11日購入して読みました。

まとめられたものには、13本(章?)の事例がのっていますが、12章が「『売らない我慢』をするスーパー。すべてはお客の健康のため」です。千葉県の食品専門店「京北スーパー」とその創業者石戸隆行(71歳)さんのことを中心にとりあげています。その中にこんなくだりがありました。

「(「売らない我慢に」共感し数年前から取引している徳島市の四宮蒲鉾店その5代目社長)的石(勝美 55歳)と石戸があったのは2008年秋がはじめて。的石が会いにいくと、石戸は、憲法九条の勉強会に言ってきた、という。何で9条なんだろう?と思っていたら、石戸が続けた。『9条は国民みんなのためにある、そして、会社の向かう方向をあらわす経営指針書は、従業員のための、いわば会社の憲法だ』。的石は感激した。『僕の思いと共通している』」(204ページ)

たいへん新鮮にそこのところ受け止めることになりました。最初私は、石戸さんが経営指針の勉強会に行ってきたことを、憲法9条に関する評価と結びつけたたとえとして話したと受け取りました。それくらい大事な経営指針書といいたくてだろうということでです。だけど少し違っていて、文字通り9条の勉強会に行き、その大事さを経営指針書にたとえて語ったとも読めます。

私にはどちらであってももすばらしいと感じました。うわっつらしか物事をとらえず、そそかっしいところばかりの私ですから、どちらが実際かと言われると、今も断定する自信はありません。すなおに字面でとると、後者のように思えますが。戸石さんは9条を認める姿勢がご本人の言で示されているとおりであり、国民を思う気持、従業員を思う気持は通じ合うものがあると言っています。九条について戸石さんの意見を受け止める気持が私にあるから、かえっていろいろ解釈してしまうのです。そして身の回りのあらゆることが結びついている9条、結びつけて考えられる9条と改めて理解させられました。

「魂の中小企業」、腰巻には「日はまた必ず昇る。ピンチに立つ経営者たちに勇気をー。」とありました。さまざまな経営者や元経営者(支援する立場の研究者の章がひとつありますが)のエールが、中島記者の筆で活写されています。「従業員を守る」立場での奮闘反省が満載でした。

8章9章が、中小企業家同友会がとりくんだ「金融アセスメント法制定運動」「労使見解」に関してあてられています。知っている経営者たちが予想以上にそこに登場したいました。熱のこもったその活動振り、また印象深く読みました。

幅の広いテーマでしかも気持がこめられた本です。9条とくっつけなくても読み応え十分。たまたま登場といえるかもしれない9条への言及部分で、読んだ人の視野の拡大にもつながればもういうことはないようです。ただ中島記者にとっても印象深いエピソードと思ったからの言及に違いありません。時代も会社も人も生きものなのだと感じています。

以上 (あほうどり) 090923