浅田次郎「マンチュリアン・リポート」に驚く

9月に浅田次郎さんの小説「マンチュリアン・リポート」が発売され、手に入れました。私には面白くて一気に読めた作品でした。奇想ともいえる設定に驚かされました。

蒼穹の昴(そうきゅうのすばる)」シリーズの第4作にあたるそうです。シリーズの過去3作を読んでいない私からすると、それで「マンチュリアン・リポート」について感想めいたことをここで述べるのは適当ではないかもしれません。しかし、それでも触れておきたいと思ってしまいました。

清朝滅亡後の中国、日本軍による張作霖(ちょうさくりん)爆殺事件の真相を日本陸軍軍人が、昭和天皇の命令を受けて探るというストーリーです。その前の作品が、中国の人が主体となっているのにくらべ、徹頭徹尾日本人からの目線です。ただ、爆破された列車の機関車が擬人化した主人公として舞台まわしの役割をはたしているのも趣向です。「蒼穹の昴」からの中国人登場人物も絡んではきますが。

陸軍中尉志津邦陽(しづ・くにあき)が、主人公です。彼は治安維持法の改悪に反対の意見書を隊内に配布、その結果陸軍刑務所に入っているというところからはじまります。内容は関心ある方は読んで確認してください。

奇想天外、良くぞ思いついたものというストーリーには違いありませんが、たいへん訴える力のあるフィクションと私は受け止めました。「当時の状況をいまの情報、視点で」(2005年琉球新報沖縄戦新聞」)への浅田さんなりの接近ではないでしょうか。過去の歴史を直視しよう、理解しようといる作者の気持を感じました。

なお「マンチュリアン・リポート」とは「満洲報告書」という意味だそうです。

今日本と中国の友好を考えていない人はいないでしょう。でも過去の歴史を振り返ることでも、現在の問題
(たとえば尖閣諸島など)のことでも、両国のかみあっていない点はいろいろあります。時間がかかることでしょう。浅田さんの作品、しっかり読めば相互理解への力にもなるのではないでしょうか。「蒼穹の昴」も日中合作のテレビドラマとなったわけですし。

以上 (与謝名 阿寒) 100927