吉井英勝著「原発抜き・地域再生の温暖化対策へ」に教えられる

3月11日以降、気の許せない状況が続いています。そのなかでも特筆すべきものが東京電力福島第一原子力発電所地震津波被災事故(進行中)です。

このゴールデンウィーク、昨日までに1冊の本を読み終えました。吉井英勝著「原発抜き・地域再生の温暖化対策へ」(新日本出版社 2010年10月発行)です。まさに今のためにあるということをひしひしと感じさせる内容でした。

私がこのようなことを言うことについては著者吉井氏は同意しないでしょう。災害対策が主眼の本ではないからです。しかも今の事態を受けてということでの出版でもないからです。でも今まさに読まれるべき本、これからを考えるにあたっては絶対に欠かせない本だと、思いました。先見性に満ちあふれた、示唆に富む、これから行動していく上での指針が盛り込まれている本だからです。これを読んで議論していこう、考えていこう、行動に踏み出そうということに応える内容でした。少なくとも私はそう受け止めることになりました。

吉井氏は、今回の原発事故以降、とくにインターネット上で、過去の発言が紹介されたり、本人のインタビューが出たりしていて4月になってから知りました。日本共産党の現職の国会議員で大学では原子力工学科出身、その知識や経歴の中で原発の問題点について警鐘を鳴らし続けてきた人であるようです。その人が昨年10月にここでとりあげることになる本を出版していました。読んでみたいと思い、書店に注文し、手に入ったときはゴールデンウィークに入っていたのです。

読み始める前硬くて難しそうだなという印象(それもまったくの間違いではありません)がありました。それを一変させ一気に読み通すことになった冒頭の文章、長くなりますが引用いたします。

「これまで、環境や地球温暖化対策に関する本は随分多く出版されてきました。エネルギーについても工学的、専門的なものから、技術論、原発推進を中心とする政策論、あるいは反原発政策論が多く出てきました。
ただこれらを産業政策としての観点からみると、共通して地域経済の視点が抜け落ちています。地球温暖化にしても、安全で安定したエネルギーの供給を論じるにしても、そのエネルギーを産みだすことがその地域の中小企業に仕事と雇用を増やして、地域の産業や地域社会の再生につながるものにしていくという『地域経済』からの視点に立って考えるというものはあまりみられないということです。
これまでは、エネルギー供給といえば一部の大企業がこれを担い、環境問題となると家庭で省エネに努力したり、エコポイントで電気器具を買うことや補助金太陽光パネルを設置することのようになってきました。実際、電力などはこれまで『地域独占』といわれる巨大な電力会社が、ほとんど一手に引き受けて発電所建設から発電、送電、売電を行ってきましたから、一般国民はただの電力消費者の1人であって、一部の人を別にして、自ら環境やエネルギー問題にかかわることはありませんでした。
しかし、果たしてそれでいいのでしょうか。本当は、エネルギー供給と環境と地域経済は深く結びついたものではないでしょうか。」(12ページ 第1章)

「私は環境問題とエネルギー問題は一体のものと考えています。そしてその解決は、大企業への二酸化炭素排出削減などの規制措置とともに、日本の各地のそれぞれの自然や条件にあったエネルギーの産出にあると考えています。しかもそれは、中小企業の仕事起こし、地域の雇用の拡大で住民、青年に働く場所をうみだすことにも結びつきます。そのことによって地域経済が回るようになり、自治体財政も回復して住民への公共サービスもすすむ、「当たり前の自治体のあり方」を取り戻すことになります。すなわち、環境と原発とエネルギー、そして地域経済再生はバラバラのものとして考えていてはだめだということです。」(13ページ 第1章)

吉井氏は、最後の本書のなりたちについてかかわってくれた人びとへの謝意を述べています。紆余曲折を経ての2010年10月の出版であったこともわかりました。この機会に吉井氏も一段と成長したようです。

「環境、原発再生可能エネルギー、防災という問題は技術者の道を歩んでいた時代から取り組んでいたテーマでした。地方議員や国会議員になってからは、これに産業や地域経済をどうするかという問題意識が加わり、さらに自治体財政と住民福祉の基盤をどのように安定させるかということが重要な部分を占めるようになってきました。そのひとつをバラバラに考えるのではなく、相互に結びついた課題として取り組んでいたときにでてきたのがこの本の中心テーマでした。」(222ページ あとがき)

直接おかげをこうむった人たちへの気配り心配りもできる人と知りました。

原発や環境問題に取り組む住民団体のみなさん、また置かれている立場の違いを越えてご協力をいただいた電気事業連合会、電力会社や原発メーカーなどのみなさん、資源エネルギー庁原子力安全・保安員の皆さんにも感謝したいと思います。」(222ページ あとがき)

こういう政治家が世にたくさんいてくれるはず、思いたいものです。でも政治家をそうしていく責任も有権者支持者としての責任かも。

読み応えがあり、考えるべき手掛かりをたくさん私に与えてくれた本になりました。

2011年5月4日 世話人