香山リカ「<不安な時代>の精神病理」

3月11日の大震災と原発被災事故の後、さまざまな人がこれからのことを発言しています。いや、私を含めてひとりひとりが考えているだから発言しているといったほうが正しいのかもしれません。

精神科医香山リカさんの「<不安な時代>の精神病理」(講談社現代新書 2011年4月)が出版されました。書店で手にし、3月11日以降にこれからの日本への提言の本と知り、読むことになりました。

大震災以前に出されていた月刊誌文藝春秋2011年4月号に特集「これが私たちの望んだ日本なのか」がありました。意欲的な企画ですべて震災前書かれたものですが、震災を経ても古びない内容の多くの発言が掲載されていました。震災前に読み、震災後に読み直してみて改めて感心したものです。もちろん玉石混淆で、震災という現実を受けて、じつはすでに「賞味期限」切れと私にもはっきりしたものがありましたが。

香山リカさんも文藝春秋特集での寄稿者でした。題して「うつ病にかかっている国」、着眼と指摘に、強い印象を持った文章(2月15日に書かれたそうです)でした。今でもその問いかけは基本的には生きていると私も思っています、

彼女が大震災と原発事故を経て、改めて思ったこと、そのひとつは、実感した休むことのない経済活動を視野に入れた「診断、処方」でなくてはならないということでした。

「経済とは、どうやらただの『お金儲け』ではないらしい。
『そんなことは、とうの昔からわかっていたではないか』と笑われそうだが、私はようやく、本当の意味でこのことに気がついた。」(まえがき)
「日本経済は、あるいは日本の社会は、デフレ不況の中でバラバラに解体されあるいは縮退し、グローバル経済の波に呑み込まれていくしかないのだろうか。
誰もがそう感じていたときに大震災が起きた。
これまで不透明だった日本の未来は、これで非常にわかりやすくなった。道はふたつにひとつ、すなわち解体や縮退がさらに加速度的に進むのか、それとも再生すろのか、である。
私自身は、ここから日本は再生に向かうもの、と考えている。
(中略)
しかし、たいへんに不幸なできごとによってではあったが、ここで私達はまったく予想外の『大きな物語』を生きることになったのである。」(あとがき)

そして、香山さんの以下の問題提起に私も取り組むことを自覚せざるを得なくなりました。

「経済の世界では、これまで『成長』が絶対的な目標とされてきたといわれる。
もしかすると私達は、近代以降の世界ではじめて、経済活動が目指すべき、『成長』以外の目標を見つけ出すことができるのかもしれない。
それこそが『人間のための経済』だと言えるのではないだろうか。」(あとがき)

香山さんの著作などはいくつか読んだりしてきました。教えられることも多く、前向きな姿勢の人という印象を持ってきたのです。前述の文藝春秋寄稿でなおそう思ったところでした。

今回の著作、単に精神病理の域を超えた、警世の提言でした。経済活動にどっぷりの私に大きな宿題を与えてくれました。しっかりその内容かみくだかせていただこうとの気持です。「日暮れて道遠し」とは決して考えないようにします。経済にも門外漢ではなく、見識も知識も私などよりよほどしっかりしていました。香山さん、ありがとう。

2011年6月10日 世話人