前泊博盛編著『本当は憲法より大切な 「日米地位協定入門」』

3月に上記の本を読みました。たいへん教えられる本、考えさせる本と出合ったことになりました。私の認識がじつにいいかげんだったこともようやく理解したことになりました。

沖縄の地元紙琉球新報で27年間記者をやってきて、今は沖縄国際大学で研究者の前泊さん、誠実に現実に向き合ってきた人だったのでした。

「はじめに」のなかで、前泊さん、本書の意図するところをわかりやすく書いています。そのなかいくつか引用させてもらいます。

『「宗主国と植民地」
これは「犠牲のシステム 福島・沖縄」(集英社)を書いた東大教授の高橋哲哉さんの言葉です。高橋さんはこの本のなかで、日米両政府を「宗主国」、沖縄を「植民地」と位置づけています。
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「あーあ、ついに言われてしまった」
失望と同時に脱力するような思い。
たしかにこれまで私が新聞社の仲間といっしょに積み重ねてきた、膨大な事件取材やインタビュー、そこから論理的に考え、見直してみると、そう言わざるをえないのです。』(2−3ページ)

『ここでみなさんに注目してほしいのが、「平均150メートル(500フィート)」で(オスプレイの)超低空飛行訓練をするという、米軍発表の内容です。なにかおかしくないですか?
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絶対におかしいですよね。車におきかえてみると、
「米軍の車両に関しては、高速道路の時速制限は『平均100キロ』」とする」
と言っているのと同じことなのです。つまり日本の法律を守るつもりは、初めからないということです。どうしてこんなことが許されるのでしょう。』(6−7ページ)

『この本を読んだみなさんは、おそらく
「沖縄は日本なのか」
「沖縄はまだ米軍の占領下にあるんじゃないか」
という思いは共有してもらえると思います。それはだれの目にもあきらかな現実だからです。でも、そこからもう一歩踏みだして、
「では、日本は独立した主権国家なのか」
「もしかしたら、日本全体がまだアメリカの占領下にあるんじゃないか」
という問題に向き合ってもらえればと思います。米軍基地やオスプレイの問題だけではありません。冒頭でのべた原発事故やその再稼動問題、TPP参加問題、検察の調書ねつ造事件など、多くの問題を生みだす原因が、そこには隠されているからです。』(11ページ)

「あとがき」のしめくくりは以下のとおりです。

『2009年の総選挙で民主党がかかげた「対等な日米関係の構築」というマニフェストは、戦後日本がなかなか達成することができない悲願、宿願ともいえます。
2012年末の総選挙で復権した自民党政権にとっても課題は同じです。その課題解決、実現の試金石となるのが、日米地位協定の改定であり、米国との単独安保体制の見直し、多国間安保体制の見直し、多国間安保体制の構築であると思います。戦後日本人が見失ってきた「自主独立」の気概が、いまこそ試され、求められています。』(396ページ)

本書の構成は、「はじめに」と「あとがき」を別にすれば「PART1 日米地位協定Q&A」「PART2 外務省機密文書『日米地位協定の考え方』とは何か」「資料編 『日米地位協定』全文と解説」となっています。

「PART1」の冒頭の質問に対する回答には、私の無知を思い知らされる内容が載っていました。

『どんな国の外交官も、出入国のとき、一般とは別の出入口ではあるものの、ちゃんとパスポートを提示して出入国審査を受けますよね。当然です。
ところが米軍関係者はそうした手続きをいっさい行わずに、基地に到着したり、基地から飛び立ったりしているのです。つまり基地の敷地内は実質的にアメリカ国内としてあつかわれているわけですが、そこからフェンスの外に出るとき、出入国審査はもちろんありませんので、日本政府はいま日本国内にどういうアメリカ人が何人いるかについて、まったくわかっていないのです。』(35ページ)

天木直人氏、孫崎享氏、共産党などにも言及されています。幅広い視野で物事を見ていこうという姿勢の反映でもあるでしょう。

本書に出会えたことに感謝しました。それから得たものから私は何をしなければならぬかを考えていきたいと思っています。第1弾孫崎享「戦後史の正体」、第2弾が前泊博盛編著「日米地位協定」の「『戦後再発見』双書」でした。出版した創元社の姿勢に感心させられました。続巻も期待せざるを得ません。

2013年3月26日 与謝名 阿寒